====== とある日のとある戦場で ====== 「C中隊の反応消失」 「ちっ…!」 司令部からの通信に思わず握りしめた拳を叩きつけてしまう。 MFATの狭いコックピット内…壁面に備え付けられたディスプレイがミシ、と嫌な音を上げる。 危ない危ない。 落ち着け俺。 俺程度の拳では強化プラスチック製のディスプレイには傷一つ付けられやしないだろうが、もしもということもある。 敵はたかが一個小隊じゃないか。 何処に焦る必要があるんだ。 「B中隊、目標の進路に先回りしろ。 ザルツ山脈の麓で片を付ける」 「了解」 短い返答と共にレーダーから12機のMFATが遠ざかっていく。 報告によると敵の隊長機は改造型のリーア五型らしいが、 他は脚の遅いアルマイアを主力とする傭兵部隊だ。 それに対してこちらは幻想国リーアの誇る幻想第一師団。 どこで我が国のMFATを手に入れたかは知らないが…傭兵風情との格の違いを思い知らせてやるぜ。 この新型MFAT…リーア六型でな。 「A中隊各機へ。 我々はB中隊と共に敵を挟撃するべく、このまま敵を追うぞ」 仲間へと通信を送り、幻想国の主力MFAT…リーア五型13機を引き連れ、幻想の街へと進行中の敵部隊を追撃する。 ザルツ山脈の前線基地が襲撃され、俺達が応援で駆けつけた時に残されていたものは仲間の屍と廃墟のみ。 敵は4機だけで防衛ラインを突破し、こちらの首都を脅かそうとしている。 サルメリスの傭兵協会か…はては…いや、ないな。 自らの考えを否定し、戦術マップへと視線を落とす。 もうすぐ…か。 ここで敵を討ち漏らせば首都の守備戦力はクロイツァ率いる自動戦闘ポッドを中核とする幻想第二師団のみ。 その時、正面から飛来した砲弾が傍らを随行していた仲間を残骸へと変えた。 「120mmライフル砲!!」 カメラをズームしてみると正面に一機。 四脚で独特の形状をしたMFATが両側面に備え付けられた大砲をこちらへと向けていた。 「重装型アルマイアか。 たかがカメ一機で!」 狙うまでもないがスマートライフルの照準を合わせ、トリガーを引く。 高速徹甲弾の一撃がアルマイアを仕留め…れなかった。 片方のライフル砲を根本から吹き飛ばしたものの、本来なら今ので落ちていた筈だ。 なるほど…C中隊があっさり全滅したのも頷ける。 「せ、セレス少佐! B中隊は第三小隊を残して壊滅!」 「何!?状況を報告しろ」 「て、敵は化け物です! あぁ!!こ、こっちにくる!た、助けてくれ!! うわぁーーーーーーーーーー!!!!」 「おいっ!どうした!B中隊応答しろ!」 ノイズだけを残し、B中隊との通信が途切れる。 さっさと目の前のこいつを片付けて状況を把握しなくては。 ぎりぎりまで肉薄し、超至近距離からレーザーライフルを撃ち込む。 さすがの重装甲も光学兵器の前では紙同然。 炎を吹き上げるアルマイアを背にB中隊の全滅地点へと機体を向ける。 その行く手を阻むように2機のアルマイアが躍り出てくるが、カメに構っている暇はない。 「アントン、後の指揮は任せた。 カメを頼む」 部下に敵を任せ、俺は敵の隊長機を追う。 先ほどの奴の腕からすると多勢に無勢とは言え多くの損害が出そうだが、仕方あるまい。 俺の勘がそうしろ、と告げているんだ。 …見えた。 「もらった!」 スマートライフルを迷わず撃ち尽くし、背部のウェポンラックからロングブレイドを抜き放つ。 案の定敵は俺の正確無比な攻撃を躱し、転身…反撃を繰り出してきた。 武器は両腕にハンドガン。 たかが二丁拳銃でまるでマシンガンを思わせる弾幕を張る敵に俺はデジャブを感じずにはいられなかった。 …そうだ、7ヶ月前のガルフ防衛戦だ。 失敗に終わった月光国最後の一大反攻作戦。 あそこの戦場で出会った敵のエース…そいつが二丁拳銃の使い手だった。 俺は紙一重で弾幕をかいくぐり、レーザーライフルで牽制しつつ敵へと接近する。 あの時は決着のつかないまま終わったが、今日こそは! だが虚しくもロングブレードによる一撃は空を斬る。 そして、その後に続く衝撃。 コンディションディスプレイ上で右腕部の表示が緑から赤へと変わる。 ちっ…。 思わず舌打ちしつつもコンソールを操作し、反応のなくなった右腕部をロングブレードごと排除する。 せめて相打ちに持ち込もうとした刹那、敵が背を向けて撤退を始める。 逃げる…のか? 「隊長、廃棄都市より巨大熱源反応出現」 「エクスキューターか。通りでな」 廃棄都市の管理者…その力は絶大で都市に近づくあらゆるものを消失させる。 時として街を離れては、通り道に破滅をまき散らしたりもする。 全く迷惑な話だ。 奴のせいで首都とガルフの連絡手段は空路しか無くなった、と言っても過言ではない。 そのエクスキューターが街を離れ始めたと言うことは、 俺達のいるこの地点…比較的廃棄都市から近いこの場所は危険が迫っているということだ。 勝負はお預けとなったが…国を守ることは出来た。 いずれ決着はつけさせてもらうぜ。 月光国のエース…十六夜。