嵐の前の…

砂の混じった風がMFATの装甲に当たり、小さな音を響かせる。
見渡す限り砂の海。
リーアの南東に広がる幻想の砂漠だ。
街を出てから三日。
いい加減砂漠の光景にも飽きた頃、俺達は廃棄都市が見える地点に辿り着いた。
今は簡単な野営地を築き、これから始まるであろう戦いに備えている。
砂漠の行軍は機体に必要以上の負荷を掛ける。
機体を万全な状態へと仕上げるべく、整備兵達が忙しく右往左往していた。
「これだけの戦力が集まると壮観な眺めだな」
愛機のチェックをしていると背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ると予想通りの人物が立っている。
「そっちの準備は済んだのか?」
「傭兵部隊は後一部隊で全て揃う」
今回各地から招集した傭兵部隊は七部隊。
その内、一部隊は現地で合流する事になっている部隊だ。
傭兵協会によるとその実力は折り紙付き…何でも目の前にいる彼をも超えると言われている。
彼…十六夜は今は亡き月光国の元エース。
かつては宿敵として幾度となく戦ったが、今では心強い仲間として力を貸してくれている。
「…新型か」
「あぁ、第三世代MFAT『リーア七型』だ」
愛機を見上げ、十六夜の言葉に頷く。
「第一師団に16機配備されている。
こいつがあれば怖い物無しさ」
ロールアウトしたばかりで実戦データが少ないのが、不安要因ではあるが…。
世界的に見てもまだ第三世代の配備数は少ない。
実質、第二世代どころか第一世代のMFATが主力を担っている国はまだまだ多いと言っても過言ではないだろう。
「装備は?」
「主兵装に125mm滑腔砲。
背部に試作品のレールガンと多弾頭ミサイルポッドを備えている。
後は近接用にレーザーブレードだな」
「豪華だな」
俺の回答に対し、彼にしては素直な感想を述べる。
七型は光学兵器の運用性を高めている機体ではあるが、今回の作戦には信頼性の高い実弾兵装をメインに装備してきた。
ただでさえ、不安材料は多いのだ。
削れる物は削るに越したことはない。
「だが、それだけじゃないぞ。
この機体は…」
「おい、あれ見ろよ」
十六夜が俺の言葉を遮り、野営地の一角を指差す。
「ん…?」
俺はやや怪訝そうな表情を浮かべながらも、言われた通りに彼の指先へと視線を向ける。
…ガキがいた。
一人や二人じゃない。
七人の少年少女…それも、似た者揃いときてやがる。
余りにこの場所に不似合いな集団の中心には若い男。
外見を見た限りでは20代と言ったところか。
…10代ではあるまい、と若干の自問自答。
「なぁ…あれも傭兵か?
少なくとも俺の部隊にガキ連れた兵なんていないぜ」
「多分、自信は無いが最後の一部隊だと思うのだが」
まじかよ…。
周りの兵達も作業の手を止め、彼らを物珍しそうに、あるいは驚きの表情で見つめている。
だが、俺は彼らの奥…そこに駐機してある機体に目を奪われた。
「どうした?馬鹿みたいな顔して」
失礼極まりない言葉は無視するとして、俺は黙って機体の方を指差す。
そこにあったのは流麗なボディを持つMFAT。
そう…かつて幻想の樹海で戦ったあの機体だ。
武器の差違こそあれど、あの特徴的な機体は間違いない…奴だ。
確かにあの時戦った奴は強かった。
もし、あの時の奴ならば傭兵協会の言葉にも頷けるというものだ。
「おい、受入手続きあるんだろ?
行ってこいよ」
「そ、そうだな」
やや歯切れの悪い言葉を残し、十六夜がゆっくりと男へと近付いていく。
俺はスケープゴートを差し出したことで安心したのか、急激な脱力感に襲われた。
MFATの脚部に背中を預け、深呼吸を繰り返す。
落ち着け俺。
かつての記憶を頭を振って払い、必死に気持ちを落ち着ける。
「は、ははは…こいつぁマジで管理者を倒せるかも…な」
俺は誰にともなく呟き、空を仰ぐ。
頭上には雲一つ無い晴天が広がっている。
作戦開始まで…後十五時間。 
secondrpg/novel/main/001-001.txt · 最終更新: 2014/01/21 18:06 by efif
CC Attribution 4.0 International
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