突入

ピピッ…ピピッ…。

セットしておいたタイマーの電子音が聞こえる。
眠りから覚めた俺はアラームを止め、愛機の起動プロセスを立ち上げた。
軽い振動がシート越しに伝わり、ジェネレーターが動き始めるのを感じる。
コンディションモニターの表示は全てグリーン、整備は万全だ。
180度の視野を持つ環境モニターは、夜明け前の薄暗い野営地を綺麗に映しだしている。
五型から搭載され始めたこのモニターだが…未だにどうも落ち着かないのは俺だけか?
メインカメラの映像だけを映していた従来のモニターと違って、新型は入ってくる情報が多すぎる。
俺がロートルになった、という事なのかもしれないな。
そもそも止めようと思っていた軍人生活も気づけば…何年経ったのだろうか。
今こうして一個師団を率いている自分がいる事が何とも不思議に思えてくる。
「向いてないと思ったんだがなぁ…」
誰にとは無しに呟き、通信機のスイッチを入れる。
「セレスより各員へ。
もう間もなく出撃の時間だが、その前に今一度作戦を確認しておこうと思う。
私とクロィツァ隊、そして傭兵の十六夜隊、マット隊で深部への進入路を開く。
その後、シュバルツ隊はコントロールルームを制圧し、廃棄都市のシステムを掌握する。
リディア隊、ルシード隊はその護衛を担当。
他の部隊は敵部隊の掃討を担当し、作戦が失敗した場合の撤退経路の維持に努める。
以上、激しい戦闘が予想されるが各員の健闘を祈る。
いいか、機体を失っても命は失うな。
本作戦参加者全員の生還を期待する」
言葉を切り、深く息を吐き出す。
…作戦開始時間ジャスト。
操縦桿を握りしめ、愛機を立ち上がらせる。
「全機出撃!」
通信を切ると同時に大口径長距離砲の重い発射音が空気を震わせた。
放たれた砲弾は廃棄都市の外壁に着弾し、大きく穴を開ける。
それを合図に野営地を出撃したMFAT部隊は散開し、全速力で廃棄都市を目指す。
『外壁に動体反応。
…迎撃きます』
先導する偵察部隊からの通信。
廃棄都市で無数の光が瞬き、雨のような銃弾の嵐が俺達に降り注ぐ。
環境モニターにAIが予測した直撃コースにある敵弾の弾道が描かれる。
落ち着いて機体を操作し、最小限の動きで敵弾を回避していく。
自機のすぐ近くで爆発が生じ、モニターが一瞬ホワイトアウトする。
偵察部隊の四型が直撃を受けたようだ。
パイロットは…即死か。
「砲兵隊!早くあのうるさい連中を黙らせろ!」
通信機に怒鳴りながらも、俺は125mm滑腔砲の照準を手近なトーチカへと向ける。
だが、俺がトリガーを引くより早く、背後から放たれた銃弾がトーチカを貫き爆散させた。
後方警戒用のサブカメラに視線を転じると、大口径のハンドガンを構えたマット機。
あの距離から当てるとは何て野郎だ。
いや…むしろあの銃の威力の方に着眼すべきか。
ハンドガンサイズでトーチカ吹き飛ばすとはな…。
そんな事を考えている間にも再び長距離砲の砲撃が直撃し、敵の砲火が少し弱まる。
だが次の瞬間、攻撃の矛先は砲兵隊の方へと変わっていた。
MFATのように自由に動き回る事の出来ない重自走砲は次々と砲撃の前に鉄屑へと変えられていく。
125mm滑腔砲で一基ずつトーチカを破壊していくが、無数にある砲台が相手ではキリがない。
『砲兵隊より攻撃隊へ。
我々に構わず作戦の完遂を!』
「ちっ…!
囮の意味がねぇな!」
戦術モニターを一瞥し、思わず舌打ちする。
砲兵隊損耗率36%、攻撃隊損耗率7%、制圧隊損耗率3%。
なおも上昇中、ってか?
「攻撃隊全機に告ぐ。目標をゲートへ集中しろ!
防壁の崩壊と同時に突破する」
レールガンの安全装置を外し、一気にゲートとの距離を詰める。
ゲートに備え付けられた機銃砲台が俺へと狙いを定め、ガトリングガンが火を噴く。
至近距離からの砲撃に弾道予測が役に立つはずも無く、勘だけを頼りに機銃砲火を避ける。
防壁にぎりぎりまで近づいた俺はトリガーを引き、レールガンを防壁へと叩き込んだ。
一発、二発、三発…。
続け様に放たれた高速の銃弾は防壁を大きく歪ませ、装甲板を飛び散らせる。
もう少し!
…しかし、トリガーを引いても弾は発射されず、機銃砲台の銃撃に俺は後退を余儀なくされる。
耳障りな電子音が弾頭を射出する為のエネルギーが不足している事を告げていた。
だが、あそこまでダメージを与えれば後は他の武器でもいける。
味方の放ったロケットランチャーが防壁の亀裂を捉え、大きな穴を開ける。
そこへ、砲兵隊からの長距離砲による一撃が加わり、防壁は崩れ去った。
「全機突入!」
再び、俺達へと集中し始める砲台からの砲撃をかいくぐり、廃棄都市内部へと突入する。
防壁を抜けた先に敵の姿は無く、そこには無数のスクラップが転がる広い部屋が奥へと続いていた。
束の間の休息にほっと息を吐き、戦術モニターへと視線を転じる。
砲兵隊損耗率100%、攻撃隊損耗率12%、制圧隊損耗率5%。
「センター応答しろ、聞こえるか?」
野営地へと通信を飛ばしても返ってくるのはノイズばかり。
全滅…か。
『中佐、どうしますか?』
「砲兵隊の犠牲を無駄にする訳にはいかない。
俺達は作戦を完遂する。
だが、プランを少し変更しよう。
撤退路の確保を担当する制圧隊は全て攻撃隊に回れ。
攻撃隊は予定通り深部へと突入…管理者を撃破する」
今作戦…オペレーションレクイエムを完遂するための目標は二つ。
コントロールルームを制圧し、廃棄都市のシステムを掌握すること。
そして、もう一つは廃棄都市の管理者…エクスキューターを撃破する事だ。
特にエクスキューターの撃破が成功しない限り、今作戦の成功はあり得ないと言っても過言ではない。
「全機前進、周囲への警戒を怠るな」
MFATの背部コンテナから降り立った歩兵部隊が先行する形で廃棄都市の薄暗い市街地を進んでいく。
マット隊の歩兵部隊は例の子供達らしく、彼らには不似合いな武器をぶらさげている。
しかし、俺が瞬きする間に彼らの姿は既に無く、俺は我が眼を疑った。
「おい、十六夜」
『どうした?』
通信機から緊張しているのか、やや堅い声音が返ってくる。
「今、ガキ共が消えたように見えたんだが」
『ついに気が触れたのか』
「なら、いい」
通信を切り、目頭を押さえる。
軽く揉みほぐし、俺は再び環境モニターへと視線を戻す。
やはり、子供達の姿は無い。
…幻覚か?
とりあえず気にしない事にした俺は、機体を奥へと進ませる。
ここからが本当の戦いの始まりだ。
油断すれば廃墟を徘徊する無人機の餌食となり、果てることとなるだろう。
そう、そこらに転がる骸達のように…。 
secondrpg/novel/main/001-002.txt · 最終更新: 2014/01/21 18:11 by efif
CC Attribution 4.0 International
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