最果て

「報告通り…か」

ディスプレイに映る映像に思わず俺は呟く。
見えているのは何の変哲もない樹海。
そう、ただの森だ…ある一点を除いては。

この樹海が存在する地点…それはつい先日まで何も存在しなかった場所だ。
それを偵察部隊が見つけ、俺が調査しにきたという訳だ。

「どうするんだ?中も見るのか?」

今回唯一連れて来た僚機からの通信。
軍の人間ではない。
オレンジに塗装されたリーア五型MFATを駆る腕利きの傭兵…そう、「十六夜」だ。
任務の危険性を踏まえ、軍部が傭兵協会から雇ったらしい。
まさかかつての敵と共に任務にあたるとは…世も末だ、と思う。

「確認せずには帰れまい?」

応答し、機体を樹海の中へと進める。
十六夜も特に返答は返さず黙ってついてくる。
どれほど進んだ頃だろうか…俺は何者かの視線を感じ始めていた。
カメラの表示を切り替えて周囲を見渡してみるが特にこれといっておかしな点はない。

「おい…何か感じないか?」
「何がだ?」

問いに答えようとしたその時、アラートが鳴り響きディスプレイに警告が表示された。

「ちっ!」

一筋の赤いレーザーが機体のすぐ脇を通り過ぎていく。
反射的に操縦桿を引いていなければ何らかのダメージを被っていたところだ。
リーア以外に光学兵器を実用化している勢力があったとはな。
若干の驚きを覚えつつもマシンガンを構え、発射元と思われる地点へ撃ち込む。

「一度退いて敵戦力を把握した方がいんじゃないか?」
「そうだな」

敵の規模を把握しないまま戦うのは確かに危険だ。
十六夜の提案に同意し、追跡されないようスモークディスチャージャーで煙幕を張る。
そして来た道を戻り、樹海の出口を目指す。

「何かいるぞ」

正面に機影。
…自動戦闘ポッド?
いや、違う。
姿形こそポッドに見えるが直感的に何かが違うと感じ取れる。
次の瞬間ポッドの銃が火を噴き…赤いレーザーが俺目掛けて放たれた。
慌てず回避運動を取り、マシンガンでポッドを鉄屑へと変える。
だが、撃破されたポッドは消失していき、レーダーが新たな熱源反応の出現を告げる。

「何だ?」

現れたのは一機のMFAT。
見たこともない機体だ。

「お前傭兵だろ。何かわからないか?」
「いや、俺もあんな機体は見たことがない」

十六夜も緊張しているのかその声音にはやや焦りが感じられる。
現れたMFATは槍にも銃にも見える珍しい武器…ポールウェポンを両手に構えているだけで、
目に見える範囲では他に固定兵装の類は見受けられない。
外見はMFATとしては流麗で美しいと感じられるが遭遇した場所が場所なだけに気味が悪いとしか言いようがない。
どうすればいい…?

「くるぞ!」

敵が動く。
ポールウェポンの矛先が十六夜へと向けられ、先端から重い射撃音と共に銃弾が放たれる。
超高速の銃弾は十六夜に回避を許さず、右腕の二の腕から先を奪っていく。
初撃で撃破されなかったのはさすが、といったところか。
しかし、俺も感心している場合ではない。
一瞬の間で肉薄した敵によって振るわれたポールウェポンをレーザーブレードで辛うじて防ぐ事に成功する。
腹部に内臓された40mmチェーンガンによる近距離射撃を試みるが敵は神がかり的な操縦で回避し、間合いを離す。
更には着地を狙った十六夜のロケットランチャーによる攻撃すらも回避してみせた。
敵の操縦技術は俺が今までに戦ってきたどんな敵よりも上だと確信できる。

「これはまずい。逃げたほうがいい」
「激しく同意する。
こんな敵は命がいくつあっても足りない」

だが…逃げれるのか?
いや、どこまで逃げたらいいのだ?
そう疑問に思いながらも機体を走らせ十六夜と二人、戦術的撤退を開始する。
思ったほど奥へは進んでいなかったのか樹海の終わりはすぐに訪れた。
申し合わせたかのようにお互いに機体を止め、同時に武器を背後へと向ける。

…どれほど待てど聞こえてくるのは自分の機体が発する機械音のみ。
先程まで嫌と言うほど感じていた視線も殺気も今はない。

「…逃げれた、のか?」
「かもな」

更に待つこと数十秒…。
ほっ、と安堵の溜息を漏らし武器を下ろす。


あの時戦った敵の詳細は今でもわかってはいない。
今ではあの樹海は姿を消し、また元の何もない空間へと戻っている。
その事に俺が深く安堵したのは言うまでもない…。 
secondrpg/novel/ss/002-001.txt · 最終更新: 2014/01/21 18:31 by efif
CC Attribution 4.0 International
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